私が五年前こういう話をすると、「人生観でどうこうなんて、そんなのは千人に三人くらいの世界じゃないですか?」と聞かれたものです。
しかし、会社や組織に人生をゆだね、食べていくため、より豊かな生活を送るためのお金を稼ぐ手段として仕事をするのではなく、志を持って、やりがいのある仕事を求める人がかなり増えてきている、と私たちは感じています。
だから私たちは、「外資系でディーラーをやっている限り、オレは二〇〇〇万稼げるから」という人にも、「でもそれはたった一人の作業でしょう?あなたはビジネスマンとして、それで一生を終えるのですか」と聞くのです。
そうすると中には「そりやあやっぱり、五〇人、一〇〇人を使えるようなビジネスマンになってみたい」と言う人がいます。
「それなら一時は年収を一二〇〇万円に下げても、こういう会杜でがんばってみたらどうあなたの働きで、会社の業績を上げ、その結果であなたの年収も上げてみたらどうですか?」とお話するわけです。
現在いる会社でも、ちゃんとそこそこに力は発揮し、認められている。
自信もある。
でも何か物足りない。
もっとチャレンジしたいという気持がいつも心の中に潜んでいる。
だからこそチャンスがあれば打って出たくなる。
一時年収を下げても、自分の力を思い切り発揮したいと思う。
こういう人は会社の業績アップに貢献し、結果として年収も上がる。
これが本当の意味での年収の上がる転職ではないでしょうか。
私たちはそういう転職のお手伝いをしたいと思っています。
「お金につられて」は失敗の原因第4章いきなり二倍や三倍の年収になるという話は疑ってかかるべきです。
お金をもらえるということは、それだけのリスクを背負うことです。
年収一〇〇〇万円の人がでっちなら二〇〇〇万円の年収にしてあげますよ」と言われたら、それはその会社のためにまず一億円の利益を上げて、その中から二〇〇〇万円もらうということです。
一億円稼げる覚悟がなくて、年収だけは倍になると思い込む。
これがよくある勘違いです。
そういう覚悟がなくて転職したときには泣くケースが多いし、泣いて当然です。
実績が上がらないときは当然クビです。
転職して、その先ですぐクビになる。
これは怖いことです。
数字の確認は、細かく念を入れてやることです。
とくに若くて年収の低いクラスの場合は、「一五〇〇万円くらいの収入が見込めます」と言われたとしても、雑誌などで家庭の奥さん向けの広告に載っている「〇〇をマスターすれば月々〇万円の副収入が」と同じこと。
「うまくいっているときにはそうなることもある」という意味だったり、「最高の待遇になったときにはそのくらい」という意味だったり、また、ひどいときには、企業側が初めから半年くらいただ働きさせて、また新しく入れ替えるつもりでやっているときがあります。
この点日本人はナアナアで話を進めがちなので、気をつけるべきです。
まともな企業の場合はそう変な人材斡旋業者は使いませんが、自称ヘッドハンターとか職業紹介、職業斡旋なんて言っている人の中には、あやしい人もいるのです。
単に年収が思ったほどでなかったくらいですめばともかく、結果的に自分の信用を落としてしまうようなことになったら、取り返しがつきません。
また、今はともかくお金が必要だとか、何かの目的のためにとりあえず身を売るというなら、「オレはとりあえず数年荒稼ぎをする」という転職もあります。
これは「私はしばらくソーブランドで働いて稼ぐわ」というのと同じ、はっきりした目標があるわけだから、それでいいでしょう。
でも人間の意志はそんなに強くはない。
「いまは仮の場」「いまはとりあえず身過ぎのためにこの仕事をしている」。
自分にそう言い聞かせながら、その業界に染まって、そのまま年をとるケースはそれこそよくある話です。
一度きりの人生を大切に考えるならば、お金のために自分を売るようなことはしてはいヘッドハンターとつき合う法けません。
個人の成長曲線と企業の成長企業や産業にも、人間と同じような成長曲線、つまり成長期とそうでないときがあります。
これはその企業で働く人材の育ち方にも大きく影響すると思います。
例えば戦前なら海運業、戦後は繊維業、重厚長大産業、組み立て産業、ハイテク、金融などの産業が、順次たくさんの人材を吸収してきました。
しかしそうした吸収力の強い産業が、必ずしも人材を育てるのに優れているとは限りません。
人気の産業に入社しても、その後、成長が鈍化して人が育つ機会には恵まれなかったり、また入社当時は不人気であっても、その後は産業が成長して、人が育つ場となったりします。
日本の雇用に関する最大の問題は、日本の企業、とくに昭和の時代を支えた大企業(たとえば旧日経二二五に入るような会社)が、新卒一括採用、一律定年という制度をとっていることです。
昨今は中途採用も増え、不況のせいで定年制も前倒しになっていますが、人間は一律に成長して衰えていくものではありません。
人によっては早熟な人もあるし、その逆もあります。
ビジネスマンの一生とその成長の度合いにも、成長期とそうでないときがあり、それはよ子ぶときと稼ぐときの区別にも置き換えられます。
しかもそれは個人個人で異なる。
ビジネス界にあっても、自分の成長に合った雇用があるのが理想です。
給与面でも日本の場合は少しアンバランスで二〇代は少し高め。
三〇代から四〇代は実力と給与が合っていないことが多く、五〇代、六〇代は、バラつきが大きすぎますが、実力の割には高いというのが一般的です。
本当は業績がきちんと評価されるような給与体系が成立していればいいのですが、現在はまだまだです。
前述したように、鉄鋼業でも、昭和三〇年代前半までに入社している人は、産業なり企業の成長と自分の世代の社内プロモーションが極めてリニアな関係にあったと言えます。
これらの企業では、時代が古いほど仕事に自由度があり、大きな仕事をしていたと言えるのです。
仕事を通じて自分が大きく成長するだけでなく、高い収入も得、やりがいもあり、人生も充実していた。
ボーナスでも、当時のそうした世代はかなりの高額を得ていました。
私は昭和五一年にKに入りましたが、企業の成長と自分の成長という意味では、私たちの世代はこの産業では完全に乗り遅れたと言えます。
たった一回のビジネスマンの人生においては、自分の成長曲線と企業の成長曲線がマッチするように仕事と雇用の機会があることが望ましい。
その意味では、五年、一〇年ならともかく、三五年も同じ企業で過ごすことは、そもそも無理があるのです。
ただし、とくに二〇代の方々に申し上げたいのは、最初の会社で六、七年はがんばるべきだということです。
少し前なら一〇年がんばれと言ったでしょう。
最初だからそれくらいは修行だと思って集中してやらないと、ビジネスマンとしての基礎づくりは無理です。
社会人としての訓練もあります。
とくに日本の社会は学生時代にそういうことを教えてはくれません。
最初の企業は、自己責任原則を学ぶ場所です。
私はまだ二六、七歳の若さで転職の相談に来る人には、「今の会社でもっと勉強してから」と言います。
企業内起業家の精神でいれば、どんなに悪く見える職場にいても、次の転職に役立つ勉強ができるからです。
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